この子の応援団


西陵高等学校 剣道教士八段 片山 倉則 
「剣報長崎」第25号 平成18年11月 より
827日、6時から諌早のグランドパレスで原口理恵子のインターハイ優勝祝賀会が盛大に行われました。後援会会長はじめ関係者各位に心から感謝申し上げます。出席者は百人ほどでした。OBの保護者とは久し振りにお会いして話も弾みました。発起人・瓜生さんの感動的な話、草野先生の数学の話、理恵子のお礼の言葉など身に沁みる話が続きました。いつも泣いてばかりいる理恵子が今日ばかりは笑顔いっぱいでした。原口の両親はどんなにか嬉しかったことでしょう。特にお母さんはどんな時も応援に駆けつけてくれました。献身的な協力や援助は誰もが知るところです。私はその姿に「過保護過ぎる」のではないかと心配することさえありました。しかし、4月の保護者会の集まりで「高校生期は我が子とかかわれる最後の期間です。借金してでも子供を応援してやって下さい!」と説明した手前、「してやり過ぎですよ!子離れしませんか!」と、のど元まで来ていた言葉を飲み込んで3年間を過ごしました。理恵子は私の前ですぐ泣く子でしたから、「また、すぐ泣く!」と何度叱ったり怒ったりしたことでしょう。そんな泣き虫が日本一になったのです。優勝した瞬間、「お母さんの愛情勝ちですね!愛情は厳しさに勝る!」とつぶやいていました。これは私の予想ですが、原口母は娘が試合に負けたり、調子を崩したりしても「あんた何しとっとね!しっかりせんね!」などと叱ったりしてなかったと思うのです。ただただ純粋に文句も言わず応援だけに徹していたのではないかと・・・。子供が試合に負ければすぐ子供をけなす風潮の多い中、ただただ純粋に献身的に我が子の応援に徹することは誰にでもできることではありません。「お母さん、おめでとうございます。叱ってばかりいた私より、愛情を注ぎ続けたあなたの勝ちですよ!日本一に娘をしたのはあなたです・‥」監督生活32年。「親が一生懸命のところは、子供も一生懸命になる!」ということが分かりました。放任している家庭より絶対に子供は強くなります。不思議と長崎西高時代からこれまで、実績を上げてきた子供の親はすべて一生懸命に子供にかかわっていました。これは「見られている」ということに起因しているのかもしれません。54歳になった私でさえ保護者が稽古を見に来ていると頑張ってしまうのです。親から見られている子供が頑張らない訳はありません。子供を強くしたかったら文句は言わずどんどん練習を見に来て下さい。黙って見ているだけでいいのです。「もう高校生なのだから子供にまかせている。」などなどという無関心な親からは日本一は生まれません。
決勝戦の相手はPL学園の山本。父親も同じPL時代インターハイ個人チャンピオン。現在は大阪府警の指導をしている親子鷹。そんな親子鷹ではありましたが、母親の純粋な応援はそれをも越えたのです。日本一にならなくとも、親は我が子の成長を見守り、一生応援し続けたい。長い人生、何が起こるか分からない。清く正しい行いばかりで一生過ごす訳にもいかない。馬鹿なこと、してはならないこともあるだろう。選手になれないこともある。試合に負けることもある。誰よりも自分が一番その非力を知り苦しんでいるその時、「それでもやっぱりあんたの応援団だよ!」と言ってくれる人がいたら、どれほど心強いだろう。もうすぐ新人戦をはじめいろいろな大会の選手が発表されていく。選手は7名。当然、出場できない者が出る。一生懸命練習してレギュラーになれなかった辛さは人にいえるものではない。そんな時、全てを知った上で、あるがままの自分を丸ごと飲み込んでくれる人がいたら、どんなにこころ安らぐことだろう。たとえ選手になれなくても、努力し続けることを見守ってくれる、応援してくれる親の存在は無言の中にも子供を励まし、勇気づけているものです。親の一生懸命な姿や思いは必ず子供に伝わり、よい影響を与えるものと確信しています。保護者の方々もいろいろご多忙かと思いますが、是非とも子供のすこやかな成長のために、時間を作って「我が子の応援団」になっていただけたら有り難いと強く思うのです。