熊本県指定 有形文化財 美術工芸品 絵画
紙本著色宮本武蔵像 (財)島田美術館
(文:熊本県教育委員会 写真:(財)島田美術館)
本画像は、「寺尾家伝来」で「武蔵自画像」との伝承を持ち、現在まで確認されている武蔵像の中で最も古くかつ優れていて、多くの武蔵画像の手本とされてきた。
落款・印章、賛文など客観的な情報には欠けているが、補筆はほとんど認められず、目の黒目部分が薄くなっていて瞳の部分にのみわずかに補筆したため、異様にきつい目つきになっているようにみえる程度である。肖像画で最も重要視される面貌描写は着実で、的確な朱墨による肉身線と軽い暈かしとが相俟って適度な立体感を表出し、頭髪・眉毛・ひげも細墨線に薄墨を掃いて写実的。唇は伝統的に外側を濃く暈かしをつけ、両端を墨で引き締めている。着衣の輪郭線や衣紋線には、特徴的な打ち込みとしなやかさがみられ、両袖口にも特徴がある。
このような様式的特徴から江戸時代前期、狩野派正系の画人による作とみて大過ないであろう。また、武蔵が向かって左向きに描かれていることからみて、武蔵没(1645)後に描かれた可能性が高く、十七世紀後半と思われる。