新年のご挨拶

 

長崎県剣道連盟会長 三原 茂

剣友の皆様、明けましておめでとうございます。お元気で新しい年をお迎えのことと存じます。旧年中はなにかとご指導・ご鞭撻をいただきまして有難うございました。今年もまたよろしくお願い申し上げます。

アメリカ発の財政危機が世界中に影響を及ぼすという混迷の中で年を終えまた年を迎えました。日本の政局も輪をかけたような迷走ぶりで、先の見通しも明らかでないまま年が変わりました。

昨秋、「アメリカの世紀は終った」というある経済学者の講演を聞いて、日本がこれ程までにアメリカに従属的で主体性のない政局運営をやって来たのかと、あらためて慄然とする思いでした。今年新年早々にはオバマさんという史上初の黒人アメリカ大統領が出現することとなり大きな話題と期待を呼んでいます。

これまでのアメリカ一国主義の政治の流れがあらためられ、世界中から対立の緊張が鎮められ、それぞれの国が主体性をもって繁栄し共生できる世界の実現を望みたいと思います。

国内に目を向けてみても、八方手づまりの現状を打開し流れが変わらなければいけないと日本人の誰もが考えているのではないでしょうか。わけても小泉首相の時代に端を発し、安倍首相の時代に一層露骨になった戦後レジームからの脱却と呼ぶところの右傾化の思潮や市場原理に基づく競争社会の招来、またその結果として格差社会の出現など、日本の社会を根底からゆするような政治の流れにはしっかりと対処してゆかねばならないと思っています。

福田首相の短命内閣から麻生政権へと変りましたが一向に国の進路が見えて参りません。民主党ならずとも文句を言ってみたくなるような政治・経済・社会の紊乱ぶりが目に余ります。私達の日本はこんなものではない、わが同胞の日本人はこのような人間ではなかったと心ある人の誰もがそのような想いでいるのではないでしょうか。

1980年代の終り頃、今から20年程前の時代の日本人はみな中流意識を持つ程豊かで、格差も少なく、人の一生の最後の福祉制度と期待された介護保険制度の導入も真近で、やがて日本にも新しい福祉社会が実現できると考えられた時代がありました。私共市民は、たとえば車椅子の方々のためには、歩道の高さを低めにして段差のないものにしようなどと、社会的弱者のための視点を誰もが持って日常の生活を営んでおりました。それがいまはどうでしょうか。「むしゃくしゃするから誰でもいいから殺したかった」と驚くべき無神経で凶悪犯罪が多発しておりますし、不正や欺瞞が平然と横行しております。派遣社員が企業側の一方的な都合で解雇されるという厳しい格差の現実に直面すると、市民の誰もが生

活防衛的な萎縮傾向におちいってしまう情況が生れるのではないでしょうか。「どげんかせにゃならん」とどこかで聞いた台詞ですが、事実みんなそう思っているのです。ひりとひとりの力は十分ではないでしょうが、私達の力で新しい社会や国造りをやってゆかねばならぬのです。そのことを国民のひとりひとりが自覚して、やるべきことそしてやらなければいけないことを着実にやってゆくことを年頭にあたってつよく決意しようではありませんか。

長崎県剣道連盟は、これまで『剣道の社会への還元』を目標として来ました。生涯剣道の追究と、剣道を通じて青少年の人間教育という2つの柱を具体的な目標として活動して参りました。今年もこの活動を推進してゆきます。高齢社会の現実をしっかり頭にいれ、一方で将来の日本の核となる青少年の人間教育に、私共が剣道から学び得たものを力にしてお手伝いをしてゆこうということにほかなりません。

その様な姿勢に市民の方々からの熱い目差しも感じます。私が所属しております社会奉仕団体の一つロータリークラブの2008~‘09年度の活動目標は「心を耕そう」であります。剣道に対する深い理解と大きな期待を寄せているのを感じます。長崎歴史文化博物館もいつもあたたかい目差しで、日本の伝統文化である剣道を市民の方々に紹介する労を惜しみません。誠に嬉しく有難いことではありませんか。

おかげさまで昨年はつつがなく諸行事を消化することができました。高校生諸君の爆発的な活躍に始まり数々の全国大会で好成績をおさめることができました。県下大会や剣道祭で多くの表彰を行ったことをみてもおわかりのことと思います。また各種の講習会や審査会でも素晴らしい成果を残したことはすでに度々ご紹介申し上げたところですが、なかでも馬場勇司前理事長の範士号拝受、都合康弘前大村市剣道協会会長の八段昇段をはじめ、居合道部の島原で行われた中央審査会の見事な運営と成果は特筆して称えられるべきものと思っております。「昨年はやることはやったぞ、今年はもう一歩上だ!」と思っておられる方が多いに違いありません。私もそう思っている一人であります。そんな期待をこめ

て新年を迎えました。

今年の秋には全日本居合道選手権大会が島原市で行われます。更に平成24年には中学校における武道必修化が、また平成26年には2度目の長崎国体(剣道会場は五島で)が開催されます。もうその足音が遠く近くひびいております。みんなでしっかりやろうではありませんか。オバマ新大統領は「変化」をかかげました。われわれは「継続と向上」です。剣友の皆様方のご健勝と一層のご活躍を祈って新年のご挨拶と致します。有難うございました。

 

 
「平成21年 新年のご挨拶」         

(財)長崎県剣道連盟会長 三原 茂
  「剣報長崎」第38号 平成21年 1月 より