「剣と心」を鍛えよう  その15

100日、続けよ!

長崎県立西陵高等学校 剣道教士八段 片山 倉則
 

 「剣報長崎」第38号 平成21年1月 より

 

「なかなか強くならない、なかなか成績が上がらない」という親や子が多いが、強くなるならない、成績が上がる上がらないには必ず理由がある。それは技術面や能力面よりも性格に拠るところが大きい。

 「小学生の成績は親の力、中学生は本人の能力、高校生は性格」と言った人がいる。まさに高校生が伸びるかどうかは性格にあるようだ。人の話を素直に聞ける心の広さ、人から学ぶという器の大きさ、謙虚さ真剣さ明るさ誠実さなど性格を表す言葉は多い。その中でも人が伸びていく一番の要素は「根気強さ」ではないかと私は思う。

 西陵高校剣道部では土曜・日曜の午前練習のあと、教室で自学をさせている。自学の間、私は体育教官室で剣道通信の作成や仕事を片づけたりしているのだが、時々、部員の自学を見て回る。面白いことに成績の伸びない子には共通点がある。1つは切り替えが遅くサッと勉強に集中できず、いつまでもダラダラと時間を過ごしていることだ。2つ目は根気がなく、すぐ居眠りしたり飽きてくるというものだ。これは剣道でも言えることで、伸びない子は取りかかりが遅く、そして指導されたことを根気強く直そうとしない。

 稽古や試合の後、生徒が私の元へアドバイスを聞きに来る。多くは癖を直すように指導するのだが、「お前は左手を直せ!」「お前はひかがみ(膝の裏)を伸ばせ!」「お前は腰を入れよ!」などと一つだけ言うことにしている。あれもこれも一度に直すことは無理だと思うからだ。しかし、その一つさえなかなか直ってこない。だから何回私の元へ来ても言われることは同じ。しまいには「もうお前に言うことは同じだから来なくていい!」と言ってしまう。根気よく直せば癖は必ず直ると私は私の経験から信じている。オリンピックの選手が人間技とも思えぬことを平気でやり抜いているのをテレビで見ることがある。たかが左足の引きつけぐらいできなくてどうするのだと思ってしまう。私の一言を根気強く直さない甘さが見え隠れしているのが分かる。

  私は常々「物事を始めたら100日は続けよ!100日根気よく続ければ必ず何かが変わる」と言い続けている。しかし、人間弱い者でなかなか続くものではない。続ければ強くなることは分かっているのに続かない。ここに上達する者、上達しない者の分かれ目がある。物事を成就させるのはそう簡単にはいかない。「根気強く」という壁を乗り越えて一流選手は生まれて育っていくのだ。

 「百練自得」という言葉がある。人が強くなる成長するというのは、ひとつひとつ石を積み上げていく作業に似ている。地道に地道に根気強く辛抱強くやっていく者が大成する。才能に優れ、すぐにできるようになる者は自尊心が強く、そしてすぐ飽きて長続きがしない。器用貧乏というものだ。逆に能力は低くても「根気強く」続ける者は簡単には崩れない、いぶし銀のようなものが輝いてくる。人間としての味や深みが滲み出てきて、人からも信用されるようになる。

  たかが1週間や三日坊主で結果を欲しがってはならない。まずは早く結果を欲しがらず、剣道も勉強も根気よく、ひたすら根気よく続けて行くことだ。せめて家庭学習3時間を100日続ける、素振り500本を100日続ける。その先に結果は見えてくる。