「良い年でありますように!!」         

長崎県立西陵高等学校 剣道教士八段 片山 倉則
 

 「剣報長崎」第26号 平成19年1月 より

  12月29日、午前中教室で自学をさせて、午後から稽古納め。その後、年末の大掃除の予定だった。

 ところが、練習の終わりかけの4時くらいから保護者が一人二人と現れて、何事かと思っていたら、練習の邪魔にならないように部室の方から掃除を始めだしたのです。

 練習の終わった頃には役員を始めほとんどの保護者が来られていて、部員と一緒にサッと神棚を降ろして拭いてくれたり、鏡餅やしめ縄を飾ってくれています。

 玄関のマットも久しぶりに上げられ、溜まった泥が除かれ気持ちが良くなりました。外に出てみるとマイクロバスが移動されていて、3名のお父さんが洗車し、ワックスまでかけてくれています。年末の忙しい時にご夫婦で来てくれているところもあるのです。冷たい雑巾を絞られている姿を見てジーンと目頭が熱くなりました。古くなった遠征バスも何年かぶりのワックスに輝きを取り戻したかのようです。

 最近、役員を中心に遠征のたびに十数名の保護者が応援に来てくれるようになりました。防具の運搬から弁当の準備など裏方としてキビキビと働いてくれています。目立たず、それでいて肝心なところで手落ちがないチームワークの良さを感じています。

 剣道は勝負ばかりで生きる競技ではありません。剣道が好きになりずっと続けられるには、まず、家庭に応援、支援がなくては成り立たないのです。家庭に波風が立ったり、親たちが無関心であるような少年少女はたいがいやめてしまいます。保護者から信頼され、協力してもらっている部活動は、それだけで立派な部活動です。勝負に勝つことだけが剣道ではないのです。

 また、我が子とかかわれる最後の期間が高校時代です。手をかけすぎるのも困ったものですが、雑草がはびこるようにほったらかしておくのはもっと問題があります。子供を教え育てるということは大変なことです。だからこそ愛情ややりがいも湧くのでしょう。

 翌日の30日、剣道通信の作成やトレーニングのために学校にやってきました。ひとり道場に立ち、神棚に向かって「みんなのおかげできれいになりました。良かったですね。」と深々と頭を下げました。

 「どうか来年も西陵剣道部にとって良い年でありますように!」

 (これは1昨年、12月に書いたものです。)