高木志伸
1.はじめに
2005年3月3日から3月10日まで,イタリアの各地で居合道を通して,日本文化を紹介する機会を得ることができました。宮崎賢太郎先生(居合道教士八段),石橋八郎先生(居合道教士七段)に同行してボローニャにおいて講習会をしました。講習会ではイタリア人の居合道に対する取り組む姿勢に驚きました。その真剣さは日本人でさえ見習うべきものが多いにありました。また,この講習会を通して,ヨーロッパの歴史の深さや文化遺産の豊富さに直に触れることができ,深い感銘を受けました。それとともに日本文化について考えさせられる機会が多くありました。今回,2005年3月3日から3月10日までの7日間のイタリア居合道紀行を思い付くまま述べていきたいと思います。
ミラノガレリア(アーケード) | |
ミラノ中央駅 | |
フィレンツェフィオーレ大聖堂 | |
大きな皿をはみ出すピザ。 |
2.空 路
2005年3月3日14:05成田空港より日本航空とアリタリア航空の提携便でイタリアミラノのマルペンサ空港に到着しました。太陽を追いかけるように約15時間の長い時間飛び続けてようやくミラノのマルペンサ空港に現地時間18時50分(日本時間真夜中1時50分)に到着しました。日本よりもイタリアが7時間遅れの時差のため到着後も頭の中はまだ眠ったままでした。
3.気候と服装
イタリアは長靴のように南北に長い国,北と南では全く気候が異なりますが,日本と同じように四季があり,どの季節もそれぞれ魅力あふれると言われています。首都のローマは一年を通じて東京とほぼ同じ気温ですが,ボローニャがある北イタリアの寒さは厳しく,特に講習期間中は講習会開催も危ぶまれるほどの雪が降っていました。
4.通貨
イタリアではヨーロッパ統一通貨ユーロを使用しています。1ユーロ=136円。紙幣は全7種で共通デザインが用いられ,人と人とをつなぐ「窓」と「橋」の図柄で表現されています。硬貨は全8種で,片面には共通デザインが描かれています。もう片方には各国独自のデザインが描かれている。イタリアではコロッセオなどがデザインされています。
5.言 語
公用語はイタリア語です。ただし地方によっては少しずつ方言があり,ローマなどの観光都市の観光案内やレストラン,ホテルでは英語も通じますが,地方へ行くほど英語は通じにくいところです。店などに入るときには(こんにちは)午前中「ボンジョルノ」,「ブオナセーラ」午後,店などに出る時には「グラツェ」(ありがとう)と声をかけるのがマナーです。夜別れる挨拶は「ブオナノッテ」(お休みなさい)と笑顔で言うことが大切だと感じました。
6.食 事
食べる事に最も情熱を注ぐイタリア人は朝食が7時から1時間,昼食は13時から3時間,夕食は19時から2時間かけてじっくりとワインやビールを飲み,話しをしながら食べます。起きている時間の半分は食事の時間と言われています。朝食はカプチーノとパンが普通。昼食はビール,赤ワインを飲みながらスパゲティーやピザを食べます。料理は意外にあっさりとしていてとても美味しく,最後に必ずカプチーノかエスプレッソが盃ほどのコーヒーカップに出てきます。ワインはヨーロッパの人々が世界最高の味というほど品質を持っていると思うほどでした。毎日食事には赤ワインを飲みました。水(ミネラル)は自然のガス入りとノンガスがありました。イタリアは北から南まで変化に富んだ地質のため,ミネラルのバラエティーも豊かで,同じ炭酸入りでもガスを後から注入したものや,湧き出たままの弱発泡性のものまで種類は多彩です。ガス入りミネラルは肉料理にとても合っていました。夕食はボリュームがあり,肉料理が主でピザやスパゲティーも出てきます。チーズも多くの種類があり,おいしく香もいいものから日本人にはとても食べられないような臭いチーズやひとかけら3000円もするような高級チーズまで450種類はあると言われています。私が一番美味しいと思ったのはプロツシュット・エ・メローネと呼ばれる生ハムをメロンの上にのせたものでハムの塩気とメロンの甘み,舌触りが絶妙の取り合わせで日本ではなかなか食することができません。近頃では日本でも生ハムが売られていることがありますが全く味が違います。
7.観 光
イタリアは多くの美術館や遺跡,寺院など見るべきものがたくさんあります。今回はその一部しか見ることができませんでした。イタリアには小さな都市が点在しています。その都市ごとに今でも中世の姿をとどめています。町にはドゥオーモと呼ばれる大聖堂が必ずあり,その素晴らしさは感動に値するものばかりでした。講習会終了後にフィレンツェのウッフィッツィ美術館に行くことができました。ルネッサンス黄金期のイタリア美術史を残す名画が勢揃いしている美術館です。展示は古代彫刻と13〜18世紀の絵画作品からなり,レオナルド・ダ・ビィンチやラファエロ,ボッティチェッリなどの作品がずらりと並んでいました。見学者も多く,平日なのに入場するまでに2時間以上もかかりましたが,その甲斐あって,見る価値があるものばかりで圧倒されてしまいました。印象に残った作品をあげてみると初期ルネッサンスの「ウルビーノ公爵夫妻の肖像」,ルネッサンスを代表する画家ボッティチェッリの「ヴィーナスの誕生」などがありました。どの作品も素晴らしく,歴史の教科書に載っているものに直に触れることができました。また,カトリック教との関わりを多く感じました。
フィレンツェの歴史的遺産。「花の聖母の大聖堂」といわれているサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂やヴェッキオ橋と呼ばれる中世以前に建設された歴史があり,心に残る美しい橋がありました。
居合道講習会の様子。 | |
休憩時間に記念撮影 | |
宮崎賢太郎先生 石橋 八郎先生 高木 志伸 |
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講習者全員で記念撮影 | |
片手の居合道剣士 | |
高段者の演武 |
8.居合道講習会
イタリアの剣道,居合道は最近,年ごとに盛んになり剣道連盟加盟数も約400名程度になってきています。今回の春季ボローニャ居合道講習会参加は約100名でした。
講習会はボローニャで行われ,3日間の講習会があった。朝9時から全日本剣道連盟制定居合12本を13時まで4時間の充実したものでした。昼休みの後には15時から18時まで3時間は夢想神伝の古流をしました。最終日までには高段者は奥居合立ち業の部を演武できるまでになりました。私達も演武を講習者の前で2回披露しました。
講習会には居合道を体験するのが初めてという全くの初心者も5名ほど参加していました。講習参加者には片手の剣士も参加していました。彼は自分に合う刀や鞘に改造して工夫をしていました。実力は健常者以上のものを持っていました。
講習会参加者は大雪にもかかわらず,自分のバカンスを返上しての合宿講習会でした。それぞれが段位にかかわらずとても熱心で積極的だった。講習会の費用も宿泊費を入れると一人10万円は超えています。彼らはヨーロッパに無い東洋の精神的な伝統や,刀の持つ不思議な魅力にひかれて講習会に参加して修行を続けています。講習会ではそれぞれが居合道に取り組む姿勢はとても熱心で,始まる10分前には全員集まり,体を充分に動かし講習会に望み,礼式では日本語を使い,常に日本文化を理解しようと努力しています。常に私達の一挙一動を見逃さないようにと一人一人が目を輝かせていました。日本の居合道高段者よりも精神的にも技術的にもはるかに超えている人を何人も目のあたりにしました。講習会最後にはイタリアの高段者が各道場の門下生の前で合同演武を披露しました。それぞれがとても真剣でとても思い出に残る良い講習会となりました。
イタリア居合道講習会は観光目的だけではなく,居合道という日本文化を実践している一人としての人間的な文化交流の役割をもっていたために充実したものがありました。そのことが日本人としての国際交流なったと肌で感じました。
今回の居合道講習会を通して私達,日本人が忘れ去っている日本文化の素晴らしさを忠告してもらったような気がしました。居合道指導をされた宮崎賢太郎先生の話では日本文化の美意識は無駄なものを極限まで取り除き,限りなくゼロに近づく事によって無限を目指しているものが多い。バラの花など10本も20本も飾らねば気の済まない西洋人にとって,水仙の花一輪をめでる文化は新鮮な驚きを与えるそうです。また,何年か後に同じような機会が得られればぜひ行ってみたいと思っています。